巨漢の個性派よ　さらば

１９９６年の安田記念のこと。
前年のスプリンターズＳの覇者であるとはいえ、
ヒシアケボノを馬券の対象とすることは
私には出来ませんでした。
１４００メートルまででしか、
勝ち星がなかったのです。
前年のマイルチャンピオンシップも
「距離の壁」が原因での３着。
３連複、３連単がある今の競馬なら
狙ったかもしれませんが、
当時３着馬が対象となる馬券は複勝のみ。
「３着が限界」の馬は「消し」でしかありませんでした。

だからこそ、この年の安田記念の直線では
この馬に驚かされました。
ヒシアケボノはスタートから単騎でハナに立ったまま、
ゴールまで粘り込みそうな雰囲気だったのだから。
ゴール寸前で好位から追いかけたタイキブリザードが、
後方から矢のような末脚で飛び込んできた
トロットサンダーが、
ヒシアケボノに並びかける。
ゴール板は３頭横一線。
ターフビジョンに映し出されたスローＶＴＲでは
トロットサンダー、タイキブリザードの２頭に、
わずかに先着を許してしまったように見えました。
それでもクビ差。
日本競馬史に残るマイラーと言っても過言ではない２頭に、
「距離の壁」があるこの馬が、
適距離ではないマイルで大接戦を演じたのです。

巨漢のＧ１馬として知られ、
後には５８２キロという馬体重で出走し、
多くのファンの記憶に残る存在だったヒシアケボノ。
想像ですがこの年は、
どんなに叩いてもなかなか馬体が絞れず、
陣営がこの大型馬に手を焼いていた頃だったのかも。
この安田記念時の馬体重は５５０キロ。
前走の高松宮杯から何とか１０キロ絞っての出走でした。
恐らくこの年、最も状態が良い時だったのかもしれません。

相手がトロットサンダー、タイキブリザードなどという
強豪マイラーでなければもしかして・・・。
直線に坂がある府中の安田記念ではなく、
直線平坦の淀で行われるマイルチャンピオンシップだったら
もしかして・・・。
勝負の世界に「タラ」「レバ」は禁物ですが、
どうしてもそんな「タラ」「レバ」をつい言いたくなる、
そんな安田記念だったように思えます。

多くのファンに愛された巨漢馬、ヒシアケボノが１９日（水）、
病気のため、ＪＲＡ競走馬総合研究所において死亡しました。

ヒシアケボノ死亡（新ＫＡＮＫＡＮの競馬ニュース）

天国の安田記念では是非とも逃げ切りを決めて
マイルＧ１のタイトルを・・・。
ご冥福をお祈りします。