クールな名手を興奮させた皐月賞馬

岡部幸雄元騎手がトウカイテイオーで１９９２年のジャパンカップを制した時、
ラジオＮＩＫＫＥＩ（当時はラジオたんぱ）の佐藤泉アナウンサーが
「岡部騎手！！岡部騎手の手が珍しく上がりました！！」
と実況した事を覚えている方も多いと思います。
岡部さんは現役時代、あまり「ガッツポーズ」というモノをしない騎手でした。

その岡部さんがトウカイテイオーの時と同様に「珍しく」ガッツポーズを見せたレースの中に、
ジェニュインで制した１９９５年の皐月賞があります。
トウカイテイオーの時は海外から豪華メンバーが集結したジャパンカップでの勝利でしたから、
思わず手を上げたくなる気持ちも理解できるのですが、
ジェニュインの時は一体何故・・・？

あの日、私は中山競馬場にいたのですが、
少し気になっていた事がありました。
レース後の岡部さんが非常にゴキゲンだったのです。
皐月賞当日の中山競馬場と言えば、
最終レース後にパドックで行われる
騎手とファンとの交流イベントを思い出す人も多いでしょう。
ジェニュインが勝った皐月賞の日も、中山競馬場ではそんなイベントが行われていました。

イベントの冒頭での事でした。
当時、日本騎手クラブの会長だった岡部幸雄さんがマイクの前に立ちました。
その時のファンへの挨拶がとても印象に残っています。


「皆さ～ん、皐月賞はどうでしたか～？」

「何という馬が勝ったのですか～？」

「誰が乗っていたのですか～？」


じっ、自慢ですか、岡部さん・・・（笑）。
ちなみに私はあの時、ジェニュインをノーマークにしていたので、
その挨拶を聞きながら、握り拳を作っていたのですが・・・（笑）。

岡部幸雄さんの現役時代をご記憶の方ならご存知だと思いますが、
彼が騎乗する競馬場のパドックには、
いつも「ＨＯＴ＆ＣＯＯＬ岡部幸雄」という応援幕がありました。
あの時の岡部さんは「ＨＯＴ」だったかもしれませんが、
明らかに「ＣＯＯＬ」ではなかったと思います（笑）。
そんなクールな岡部さんを興奮させる「何か」が
あの日のジェニュインにはあったのでしょうね。
恐らくその瞬間、ジェニュインに乗っていた岡部さんにしかわからない「何か」が・・・。

日本競馬史に残るクールな名手・岡部幸雄を興奮させた皐月賞馬。
ジェニュインとはそんな名馬なのです。
報道等でご存知の通リ、その皐月賞馬ジェニュインが１９日（月）に死亡しました。
「ジェニュイン」という名前を聞くと、
私はどうしてもあの日の岡部幸雄さんを思い出してしまうのです。
「死亡」のニュースを聞いた時、私が真っ先に思い出したのも、
あの日の中山競馬場での出来事でした。


ジェニュイン号のご冥福をお祈りします。