守秘義務


数年前、私が勤めている会社の業務で、
あるWebサイト新規構築に関するプロジェクトに
関わったことがあります。
そのWebサイトはシステム開発とも関係する
大掛かりなものでした。
その為、IT関連企業数社によるコンペ方式で
委託先を決定することに。
参加した数社の中には、
大手メーカー系のところから、
いわゆる「ベンチャー系」のところまでありました。

面白かったのは、
同じ与件を同じ時間、場所、資料で
事前に説明しているのに、
会社によって「踏み込み方」のレベルに
違いが大きいということ。
参加したあるメーカー系の提案は
「このプロジェクトを請け負うにあたって、
弊社の体制をご説明します。
責任者は誰で〇名で専属チームを組み、
ブレーンとしてシンクタンクA社も参画します。
(そのA社の担当者挨拶)
システムは弊社のBデーターセンター内に構築します。
このデーターセンターの機能は・・・。」
と、受託体制やインフラについての説明に
大半の時間を費やし、
Webサイトのコンテンツ提案については
企画書に数行概要が書かれていただけでした。

一方、同じコンペに参加した「ベンチャー系」は
いきなりサイトマップ案を提示、
そしてコンテンツ案の説明、
更にはいきなりキャラクターデザイン案まで出してきました。
びっくりして私が「ボツになっても費用は出ませんよ」と
確認すると、
「結構です。きっと(提案するコンテンツ案の)イメージが
沸かないでしょうから」と担当者は平然とプレゼンを続行。
大手メーカー系社同様、
受託体制やインフラ回りについても説明はありましたが、
それは簡単に流す程度で、
説明の大半はコンテンツの内容についてのものでした。
彼らがパワーポイントで作った企画書の最後の1枚には大きく、
「我々は御社とともに悩み、考え続けることを誓います」
と1行書かれていました。

後日、協議して委託先を決定。
決定したのはその「ベンチャー系」IT関連企業でした。
まあ、具体的内容まで踏み込んで提案してきましたからね。
その一方でボツになった前述の「メーカー系」担当者は
提出した企画書の返却を要求。
その会社曰く、
「弊社独自のノウハウに基づく企画提案であり、
外部への情報流出を避けないといけないので」とのこと。
「独自の」って
受託体制とインフラについて説明してあるだけじゃん(笑)、
と思いつつ、
「企画書の返却」については
その企画書自体にも書かれていましたので、
我々も不用意なメモなど書き込まないようには
していたのですが・・・。
同じ企画書でも「ともに悩み、考える」と書いてあるものとは
エラい違いやな、と思いましたけどね(笑)。
ちなみにその「ベンチャー系」の企画書には
「企画書返却」についての記述は全くありませんでした。

岩手競馬の民間委託問題に関連して、
岩手日報のサイトにこんな記事が出ていましたが、

ユニシスとの交渉暗礁 岩手競馬の民間委託(岩手日報)

この中にある、

―(日本ユニシスが守秘義務規約締結を要求する)背景には、
民間のノウハウが詰まった再建案の
外部流出の懸念と、再建案を示した上で委託を断られる
「情報の無償提供」を避けたいとの考えがあり、
民間企業が交渉する際の原則-との姿勢を崩していない。―

の部分を読んだ時、思い出しましたよ。
「大手メーカー系」担当者が言っていた話と全く一緒・・・(笑)。

「ボツになった提案」というのは
余程の事がない限り、
手元にストックしておく価値なんかないのですよ。
「ポイッ」とする以外にないのだけどなあ(笑)。
まあ、その「ポイッ」をごみ箱から探して
流出させる奴はいるかもしれんけどね。
でも担当者としてもそんな企画書を手元に置いておくのは
邪魔で仕方がない場合がほとんどです。
だから「外部流出」させる価値もなかったりするのですが・・・。

もちろん、ビジネスのルール上は
その「大手メーカー系」や日本ユニシスが言ってる話が
正論ですよ。
最近はコンプライアンスがどうとかいう点も厳しく問われるし、
下請法の運用についてもうるさくなっているし。
だからこうした権利を主張するのは正しい姿勢です。
でも提案するという行為、
営業的に仕事を獲得するという行為は、
提案者には常にある種のリスクを伴うものだと
思うのですよ。
前述の「ベンチャー系」も実際の業務進行の段階になったら、
「コンペの時のモチベーションはどこに行ったの?」
という状態になったしね。
でも「提案段階」で見られている部分というのは、
その会社がこの与件にどこまでリスクを背負えるか?
も問われている、と私は思います。

くれぐれも言っておきますが、
その「リスク」は提案させる側が
提案者に強いてはいけないものであるのは当然のことです。
特に今回の岩手競馬のように、
「行政―民間企業」間のやり取りでは
その部分は非常に重要視されます。
ただ同時に「受注・受託」を目指す「民間」側にとっては
その「リスク」をどこまで背負えるか、
がポイントだということは申し上げておきます。
ケースバイケースだと思いますよ、
「民間」であってもね。

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プロフィール

菅野一郎
(かんのいちろう・本名同じ)
「もっと競馬をやりたいな」で、
「第1回Gallopエッセー大賞(2005年)」において、
佳作を受賞。
現在、競馬読み物Webサイト
「WEEKEND DREAM」管理人を務める。
時には厳しく、時には温かく愛情を込めて、「競馬の未来」を語ります。

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