(書評)「美浦トレセン発 ファンが知るべき競馬の仕組み」(谷中公一氏著)


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久しぶりの「書評」です。
「本を読む」という事自体は
そんなに苦痛ではないのですが、
どうも「競馬」というジャンルにおいて、
ご紹介したい書籍になかなか巡り会えないもので・・・。
そんな中、久しぶりにご紹介する一冊はこちらです。

「美浦トレセン発 ファンが知るべき競馬の仕組み」(谷中公一氏著・東邦出版)

谷中公一さんという人については私が改めて説明するまでもないでしょう。
JRAの元ジョッキーで、現在は美浦・阿部新生厩舎の調教助手。
一方でグリーンチャンネルで中央G1(Jpn1)当日の夜に放送される
「A1 NEWS STAGE」で解説者としても登場、
時には首都圏のウインズでのイベントにも登場するという、
厩舎関係者としては異色の存在として知られています。
多くの競馬ファンたちが彼に注目するようになったのは、
恐らくこの本がきっかけでしょう。

崖っぷちジョッキー―負けてたまるか!(光人社)

私は実はこの本をまだ読んでいません。
先に後から出た著書の方を読んでしまったのですが、
ある意味、それで正解だったかな、と思っています。
プロローグに

―馬という動物について、僕は以前より深く知った。
そのことについて、語ってみたい。
前著では伝え切れなかったジョッキー稼業の
あれこれも語りたいし、
厩舎社会の断面も語ってみたい。―

とあるように「崖っぷちジョッキー・・・」の頃は
「崖っぷち」とはいえ、
「ジョッキー」という立場のみで書かれていたものが、
「調教助手」という別の立場も経験した上でのものに
なっているのでしょうから。
実際、このプロローグの中にこんな話が出てきます。

―ジョッキーだったころ、自嘲気味に
「俺は調教騎手だから」なんてことを言っていた。
レースにはほとんど出ない。調教にばかり乗っている。
そういう意味の冗談だ。
しかし実際に助手になってみると、
騎手と助手とでは、
想像していた以上に違う事がわかった。
馬とのかかわり方が、正反対と言っていいほどに違う。―

どう違うのかは本を読んでみて頂きたいのですが、
本人の競馬観が変わったというか、
視野が広くなったというか、
きっとそんな事も踏まえた上で書いたものだ、
ということなのでしょう。
(「崖っぷちジョッキー」の方も読んでみようかな、
とは思っていますが)

もっとも競馬サークルの外側にいる人間としては
どうしても「騎手時代」について新たに書かれた話の方に
つい興味を持って読んでしまいますけどね。
特に印象深かったのはこの話。
毎年、暮れの忘年会シーズンになると、
各厩舎ごとに忘年会が行われます。
所属厩舎以外の厩舎に騎手が呼ばれる時、
その騎手は「これ、今日の足しにしてください」と
封筒に1~3万円を入れてその厩舎に置いてくるのが
「営業」として常識になっているそうですが、
忘年会は、当然の事ながら厩舎の数だけあります。
リーディング上位の人はともかく、
下位のジョッキーにとってはこの「営業経費」はかなりの痛手で
「崖っぷちジョッキー」だった谷中さんは
借金をして忘年会に出ていたのだとか。
こうしてお金を置いていく事が騎手として当然の事だった訳だし、
こうした「営業」の結果、騎乗馬が増える可能性もあるのだから、
仕方のないことなのかもしれません。
そんな事情が分かっているから、
立場が変わり、
調教助手として、厩舎の忘年会を仕切る側になった谷中さんは
忘年会に騎手を呼ばないのだとか。
呼ぶ時は「絶対にカネを持ってくるなよ」としつこく念を押しているそうです。

今回の著書ですが、
谷中さんが書くに当たってのコンセプトは
恐らくこんな感じでしょうか。

「競馬という産業はファンが買う馬券代で成り立っている。
である以上、騎手経験者として、調教助手として、
ファンが馬券を買う上で少しでも役に立つ話を伝えたい。
立場上、予想行為(個々の馬の評価など)は出来ないが、
一般論としてならいくらでも出来る筈だ。」

彼がこの本を書いた理由、
そしてグリーンチャンネルや
JRA主催のイベントに出る理由が何となく分かった気がしました。
今、某騎手のおかげで騎手や厩舎関係者の「ファンサービス」
という事がネット上で議論になっていますが、
本当に実のある「ファンサービス」とはファンに手を振ることなのか?
サインや握手をすることなのか?
騎手をタレント扱いすることなのか?
そんな疑問について改めて考える
いいきっかけになるかもしれません。
少なくとも谷中さんは「ファンの馬券検討に役立つ“一般論”」なのだと
思っているのでしょう。
私もこの考え方に同意します。
もっとも書かれている事を鵜呑みにして馬券を買うか、
という話になると別ですけどね。
恐らく、厩舎関係者や同じ調教助手の立場の人で、
「馬」について、全然違う見方をする人もいるのでしょうし。
あくまで「1つの見方」として受け止めるべきですが、
現状はその「1つの見方」さえありません。
そう考えるとこの本に書かれている
専門紙における「調教欄」の見方などはいい勉強になりますし、
「ディープインパクトでさえ、能力だけで勝ち進めるのはオープン特別まで」
という話も非常に面白く思えてきます。

本当は谷中さんのような人は競馬社会の外に出て、
競馬メディア関係者の立場で活躍して欲しい気がするのですけけどね。
でも調教助手をやりながら、本を書いたり、
グリーンチャンネルに出たり、
ウインズでのイベントに出てくるから面白い、という見方もあるのかなあ・・・。
このあたりは私も自分の考えがまとまらないところですけどね。
でも厩舎関係者がオープンに出来る話はもっとたくさんあること。
「馬券検討に役立つ話」こそ「ファンサービス」なのだ、ということ。
特に後者は忘れられがちな視点なだけに、
それを思い出させてくれただけでも、
この本を読んで良かったと思っています。

ところで第三章にある「JRAの八百長防止策」(80ページ)の話は
本当なのかなあ?
田原成貴氏が競馬への関与を15年禁止されているといっても、
どこかのウインズに馬券を買いにいったところで
JRAがチェックできる訳がないだろう、と思っていたのですが、
この谷中さんの記述が本当なら凄いというか、
ある意味、怖いというか・・・。
興味のある方は読んでみてくださいませ。

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プロフィール

菅野一郎
(かんのいちろう・本名同じ)
「もっと競馬をやりたいな」で、
「第1回Gallopエッセー大賞(2005年)」において、
佳作を受賞。
現在、競馬読み物Webサイト
「WEEKEND DREAM」管理人を務める。
時には厳しく、時には温かく愛情を込めて、「競馬の未来」を語ります。

※「プロフィール詳細・経歴」もご覧ください

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