(書評)「いのちに抱かれて―楓子と大地の物語」(鳴海章氏著)
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前日付の日記が、
ちょっとあっさりしたものになり過ぎたので、
今日は「競馬ニュース」よりも、
この日記の方に力を入れましょう。
以前からお約束していました
この本をご紹介します。
「いのちに抱かれて―楓子と大地の物語」(鳴海章氏著・徳間書店)
北海道でばん馬を生産する牧場に生まれた夏目楓子(ふうこ)。
しかし、東京での生活に憧れて上京し、
広告代理店のOLとして日々を過ごしていた。
だが都会暮らしに疲れ、仕事に疲れ、
いつの間にか30歳に・・・。
そんなある日、実家の父親が急死したとの連絡が・・・。
北海道に帰った楓子は両親が経営していた
牧場の厳しい現実を目の当たりにしつつも、
ばん馬を、そしてばんえい競馬を知り、
全てを一から学びつつ、その牧場を引き継いでいく・・・。
作者である鳴海章さんは、
映画「雪に願うこと」の原作「輓馬(ばんば)」の作者としても
お馴染みの帯広市在住の小説家です。
この作品も「輓馬」同様、ばんえい競馬が舞台になっています。
但し、「輓馬」はばんえいの厩舎におけるストーリーでしたが、
こちらは生産牧場が舞台となっています。
読んでいる最中に少し思ったのは、
ストーリーが始まってから、
主人公の楓子が実際に牧場での仕事を始めるまでの
過程の部分が長すぎるな、という事。
小説の構成としてはどうなのか、と正直思いました。
でもこの作品は「競馬ニュース」でもご紹介しましたが、
2005年1月から2006年3月にかけて、
北海道新聞の日曜版に「楓子のダイチ」として連載されていたものとの事。
その連載小説に加筆・修正を加えて単行本にしたそうです。
道新では毎回どの位のスペースを使って
掲載されていた小説なのか、分かりませんが、
連載小説を一冊の本にまとめると、
こんな感じになるのかもしれませんね。
このあたりは道新で連載を読んでいた方のご意見を伺いたいところですが・・・。
私は「輓馬」も読みましたし、「雪に願うこと」も見ました。
だからどうしても比較しながら読んでしまうのですが、
「輓馬」と「いのちに抱かれて―楓子と大地の物語」の
2つの作品には、
「ばんえい競馬」をテーマにしている点以外にも、
大きな共通点があります。
「輓馬」の主人公、矢崎学は東京で事業に失敗して、
逃げるように故郷の北海道に戻ってきました。
一方、「いのちに抱かれて―楓子と大地の物語」の
夏目楓子は都会暮らしに疲れて、北海道の実家に戻ってきました。
両者とも東京に出て行く以前は、
それほど故郷に愛情を感じていなかった、という点も、
似ているかもしれません。
今の私が結構、似たような状況・・・。
ちょっと自分との比較で考えてしまいました。
楓子は父親を亡くしましたが、私も最近母親を亡くしています。
楓子が東京で勤めていた会社が広告代理店というあたりも何だか・・・。
もっとも私の場合は実家の仙台に帰ったところで、
牧場も厩舎もない、
ただのサラリーマンの家の子だったりしますが・・・(苦笑)。
ただ、2つの作品を比較した時、
「いのちに抱かれて―楓子と大地の物語」は主人公が
女性という事もあるのかもしれませんが、
どちらかというと女性にも読みやすい作品に
なっているような気がします。
というか、是非女性に読んで欲しい小説です。
出来れば主人公の楓子に感情移入しながら
読む事をオススメします。
牧場にいたダイチという馬への想い、
そして東京でOLをしていた時に付き合っていた、
「男爵」と呼ばれていた妻子持ちの不動産会社社長との関係。
そんな要素が面白く絡み合って、
いいストーリーに仕上がっている、そんな印象を受けました。
「雪に願うこと」を見たから書く訳ではないですが、
エピローグの部分などは、
工夫すれば涙なしでは
見る事ができない映像に仕上げる事もできそうな・・・。
別に映画化して欲しいとか、そんな希望はありませんが、
この部分を読んで涙する女性がいたら、俺は間違いなくホレるね。
ホレられた方は迷惑だろうけど(笑)。
競馬好き、ばんえい競馬好きの方は是非、
ばんえい競馬の存廃問題の過程でもほとんど語られなかった、
ばん馬の生産牧場の実態を知るつもりで読んでいただければ、と。
ダイチの能力検査の場面などは、
胸が詰まるような想いで読まれる方もいるかもしれません。
「輓馬」(映画「雪に願うこと」)とはまた違う側面の
ばんえい競馬を知る上で、
是非ともオススメしたい小説になっていると思います。
ばんえい競馬に興味のある方も、あまり詳しくない方も
良かったらひとつ・・・。
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