(独り言)「騎手免許」の将来

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23日(日)の菊花賞に、
二人の地方競馬所属騎手の名前がある。
1枠2番のルイーザシアターに愛知の岡部誠騎手、
6枠12番のハーバーコマンドに兵庫の木村健騎手が
それぞれ騎乗する。
今回騎乗する経緯は色々あるだろうが、
間違いなく言えるのは
厩舎関係者などの現場レベルでは、
彼らが必要とされているということ。
各地方競馬のトップジョッキーとして活躍する騎手たちは、
中央競馬の関係者の間でも高い評価を受けている。

この菊花賞の枠順が発表された20日(木)、
大井の戸崎圭太騎手が
JRAの騎手免許1次試験で落ちたというニュースが飛び込んできた。
戸崎騎手も今年の安田記念でリアルインパクトに騎乗して優勝、
G1ジョッキーとなっている。
彼も中央競馬の厩舎関係者から高い評価を受けている
地方所属騎手の一人だ。
そんな実力派の騎手をJRAは試験で落とすなんて・・・、
と思う人も多いだろう。
私もその意見には同感だ。
だが一方でこの日本における「騎手免許」のシステムは
中央・地方共にもうそれほど長く続かないのでは?
という気もする。
その根拠は全くない。
妄想だと指摘する人もいるだろう。
だが全くあり得ない話ではないように思えるので、
書いてみたい。
その前提で読んで頂きたい。

JRAは17日(月)に2012年度の開催期割を発表した。
大幅に変更された日程等に驚いた人も多いだろう。
その大きな変更点の一つに、
いわゆる「ローカル」と呼ばれる競馬場での
開催日数減がある。
夏の北海道シリーズなどは9月初旬に終了してしまうし、
福島、中京、小倉の各競馬場も開催日数が減少している。
きっと売上減が理由だろう。
今後も更なる減少、
または廃止の可能性もあるかもしれない。
こうした競馬場での開催が減り、
代わりに目立つのは2場開催の日。
「3場目」がないと確実に割を食う人達がいる。
若手を中心にこうした競馬場を主戦場としてきた騎手たちだ。
ローカル開催が減る分、
東京・中山・京都・阪神での祝日開催をやることで、
1年間に実施するレース数を維持することは出来るのかもしれない。
だが2場では騎乗馬が回ってこない騎手もいるだろう。

ターフを去る騎手が増えるかもしれない。
勝負の世界だからそれはある程度は止むを得ないという
考え方もあるかもしれない。
だが限度を超えれば、
JRAとしても何らかの対策を講じなければならなくなる。
地方競馬における短期騎乗などは
その対策の一つとなるかもしれない。
騎乗機会を確保することが
若手騎手のレベルアップに繋がるという意見もある。
だがこうして地方側がJRAの騎手を受け入れるとなると
別の問題が生じる可能性もある。
反対にJRAが地方競馬所属騎手を
受け入れなければならなくなる、という見方もあるのだ。
しかし実現すれば、
無理に地方所属馬をJRAのレースに出走させなくても、
JRAの騎手免許試験を受けなくても、
地方所属騎手がある程度の騎乗数をJRAで確保出来るのではないだろうか。

かつて安藤勝己騎手がJRAに移籍した時、
彼が元々所有していた地方競馬の騎手免許は返上すべきか?
それとも両方所有して、
中央でも地方でも騎乗できる「ダブル免許」制度を導入すべきか?
そんな議論が巻き起こったことがある。
当時の「ダブル免許」反対派が地方競馬の騎手免許制度について、
「騎乗できる競馬場が限られているではないか。
ダブル免許の前に地方競馬のシステムを変更すべきだ。」
という指摘をしていた事を思い出す。
この指摘は現在の地方競馬にも残っている。
だがこのシステムも徐々に崩れ始めている。
どの競馬場も他地区の騎手を受け入れる
期間限定騎乗の制度が設けられている。

その中でも高知競馬を思い出して欲しい。
南関東を中心に、
期間限定騎乗をする若手騎手が多数存在する。
彼らにとっては「武者修行」なのかもしれない。
だが「高知競馬」を基準に見ると
別の側面が見えてくる。
こうして他地区の若手騎手を受け入れておきながら、
10頭立て以上のレースが多く組まれる日には
福山競馬や荒尾競馬の所属騎手に、
「応援騎乗」を依頼しているのだ。
この状況は「高知競馬は騎手の数が足りない」ことを意味している。
高知だけではない。
年々賞金が減額となる地方競馬においては、
引退する騎手の数が増えているのだ。

先日、グリーンチャンネルの「日高支局定期便」に
佐賀競馬に所属していた新原健伸元騎手が登場していた。
新原元騎手は現在、
JRAの日高育成牧場の職員として、
「ブリーズアップセール」に上場する「JRA育成馬」の
調教を担当しているという。
彼にかぎらず、
育成牧場等に「第2の人生」を見つけて引退する
地方競馬騎手は少なくない。
いずれは全国の多くの地方競馬で
「所属騎手が足りない」という事態に見舞われる可能性はあるだろう。
基本は地方競馬間での「応援騎乗」という形で対応するのだろうが、
この状況が続けば、
中央競馬の所属騎手にも
「応援騎乗」の依頼があるかもしれない。
「騎乗馬のない騎手」が増える可能性がある中央競馬、
「騎乗する騎手がいない馬」が出てくる可能性がある地方競馬、
双方にギブアンドテイクの関係が成立するのではないだろうか。

更に別の見方もある。
そしてこの先、
覚悟しなければならないと思われる事態、
でも起きて欲しくない事態に、
日本の競馬界は見舞われる可能性は十分にある。
今年一杯で廃止となる荒尾競馬場同様、
ここ数年のうちに廃止となる地方競馬は更に出てくるに違いない。
10日(月・祝)に東京競馬場で行われた
マイルチャンピオンシップ南部杯を思い出して欲しい。
荒尾競馬廃止が決まった中で行われた「岩手競馬を支援する日」は、
「被災地支援」という目的とは別に、
競馬界全体における
「残すべき地方競馬を選別する」第一歩ではないのか?
中央はローカル開催を縮小・廃止の方向に向かい、
地方は廃止を余儀なくされる競馬場が新たに出てくる。
こうして日本競馬の規模は縮小されていくのだろう。
縮小された競馬界において、
中央・地方の垣根など意味を成すものだろうか?
双方の「生き残る知恵」が
騎手免許の統一化に向かわせる可能性は
十分にあり得るのではないだろうか。
そんな時代においては
安藤勝己騎手移籍時の「ダブル免許」も、
今回の戸崎圭太騎手がJRAの騎手免許試験に落ちたという事実も、
単なる昔話になってしまうに違いない。

私の妄想は
果たして現実になるのだろうか?
ここまで書いておいて何なのだが、
決して明るい未来ではないだけに、
別の方向に向かって欲しいという思う自分もいて、
微妙な気持ちである。

 

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プロフィール

菅野一郎
(かんのいちろう・本名同じ)
「もっと競馬をやりたいな」で、
「第1回Gallopエッセー大賞(2005年)」において、
佳作を受賞。
現在、競馬読み物Webサイト
「WEEKEND DREAM」管理人を務める。
時には厳しく、時には温かく愛情を込めて、「競馬の未来」を語ります。

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