(独り言)「小回りコース」の魅力

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海外遠征をする日本調教馬が増えたり、
インターネット等で海外競馬に関する情報が容易に入手できる状況も
理由としてはあるのだろう。
海外競馬に詳しい評論家や短期免許で日本にやってくる外国人騎手から
「海外には新潟競馬場や東京競馬場よりも直線の長い競馬場たくさんある」
などという話がメディアに紹介されることも事情としてあるのかもしれない。
4コーナーから直線までの距離を長くする形での
改修工事が行われる競馬場がJRAでは目立っている。
3月にリニューアルオープンした中京競馬場も
かつてのような「小回りコース」とは言い難い競馬場に変わってしまった。
「小回りコース」はこれからの競馬においてはトレンドではないのかもしれない。
確かに直線での脚比べが長くなった方が
「強い馬」の見極めには適しているのかもしれないが。

だが「小回りコース」には別の面白さがあると思う。
特に芝コースを有するJRAの「小回りコース」には独特の面白さがある。
「小回り」であるが為に、
開催前半は馬場の内側を回った逃げ・先行馬が有利になる。
コースロスを伴うことを考えれば、当然の結果だろう。
しかし開催が進み、
芝コースである程度のレース数が消化されるようになると、
多くの馬が走った内側は蹄跡が目立つようになり、
ボコボコとして走りにくい状態になる。
雨の中での開催が多い時などはその傾向がはっきりと見られるようになる。
すると馬場が荒れていない中央から外よりを回った
差し・追い込み馬の台頭が目立つようになる。
いわゆる「外差し」の馬場である。

こうした開催後半の芝コースには、
馬券を買う我々も、そして恐らく馬上の騎手たちも、
ある悩みを抱えているに違いない。
確かに馬場が荒れていない分、
外を回った方が走り易い。
しかしその分のコースロスを余儀なくされる。
果たして本当に外をマクるような戦術は正解なのだろうか?

今年の皐月賞はまさにそんな状況下の
「小回りコース」中山競馬場で行われた。
そして優勝したゴールドシップの内田博幸騎手は
そんな馬場状態や騎手・ファン心理を逆手に取ったレース運びを見せた。
多くの人馬がコースロスを覚悟で
馬場の外を回るレース運びを選択するというのなら、
自分は最後方からその馬群の内側をすくう「経済コース」を回って
抜け出してやろうという作戦である。
その作戦は見事にハマった。
多くのファンも、そして他馬に騎乗していた騎手たちも、
驚きの声を上げるしかなかった。

「小回りコース」ならではのドラマと言っていいだろう。
直線の長い競馬場ではあまりお目にかかることはない、
騎手同士の駆け引きである。
勝敗に「騎手」の実力が影響を与える比重が高くなる分、
「強い馬同士の脚比べ」とは趣が違うかもしれない。
しかしG1レースに騎乗する騎手たちの
「一流」の判断が問われるレースを見ることが出来たのだ。
しかも馬場の内側が荒れている開催後半ならではの判断の違いが、
明暗を分ける結果だった。
これが「小回りコース」で行われるレースの魅力なのだ。

海外競馬の話の多くは、
日本の競馬との「スケールの違い」が面白さだったりすることが多い。
だからJRAは直線の長いコースを作ろうと考えるのだろう。
だが日本独特の事情で出来た「小回りコースの競馬場」には、
「小回りコース」だからこその面白さがある。
今年の皐月賞はそんな面白さを教えてくれたレースだったのではないだろうか。
そんな「小回りコース」で行われる日本の競馬が
私には少しだけ誇らしく思えたのだが・・・。

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プロフィール

菅野一郎
(かんのいちろう・本名同じ)
「もっと競馬をやりたいな」で、
「第1回Gallopエッセー大賞(2005年)」において、
佳作を受賞。
現在、競馬読み物Webサイト
「WEEKEND DREAM」管理人を務める。
時には厳しく、時には温かく愛情を込めて、「競馬の未来」を語ります。

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