[コラム]黒塗りの競馬専門紙

私が競馬を始めた1990年代のことである。競馬場や場外発売所に行くと、時々こんなベテランファンの姿を見かけることがあった。

そのベテランファンが手にしている競馬専門紙だが、評論家・トラックマンによる予想印を黒のマジックペンで塗り潰し、その印がわからないようなっている。中には買い目の所まで塗り潰している人もいた。恐らく、こうした「他人」の予想に左右されずに買い目を決めたい、ということなのだろう。「印」というモノはそれぞれの新聞社に所属するトラックマンによる取材結果が現れているモノなのだから、競馬専門紙を発行している側にとっては面白くない話であるに違いない。だが一方で、個々のファンはそれぞれが勝負なのだから、そんな新聞社側の思惑なんか知ったこっちゃない、というのも間違った考え方とは言えないだろう。

JRAなど競馬主催者の側からすると、ファンには1点でも余計な目を買って欲しい。だから、競馬専門紙の評論家やトラックマンによる印は、競馬主催者がその余計な買い目を増やす材料として、非常にありがたい存在でもある。地方競馬の主催者が場内・場外で場立ちの予想屋を公認する背景にもこうした事情がある。

皆さんは馬券を買う時、競馬専門紙やスポーツ紙の印や、場立ちの予想屋による予想を、そんな視点で考えたことがあるだろうか?もちろん、参考にすべきモノは取り入れていいと思う。だが、不必要だと思ったり、「迷い」を誘う原因になるというのであれば、黒のマジックペンで塗りつぶすなどして、こうした情報をシャットアウトするのも、時と場合によっては勝利への近道だろう。

何故、急にこんな話を書こうと思ったのか?8日(月)にこんな日記を書いた時に、ふと思ったことがきっかけである。

[日記]放送事故のような話ではあるけれど・・・

フジテレビ系列の競馬中継で生じた緊急事態に関して、最後にこんな一言を付け加えた。

-格闘技も似たような話ではないかと思いますが、しっかりとその競技を見たい人は地上波ではなく、専門チャンネルと契約すべきではないでしょうか。競馬で言えば、グリーンチャンネルということになりますが。地上波のテレビ・ラジオ局に文句を言っても、その会社の事情を優先せざるを得ない状況もあるでしょうし・・・。

JRAがグリーンチャンネルWebとは別に、地方競馬のような無料でのインターネットライブ配信をやってくれるのであれば、こんな騒ぎにはならないような気もしますが・・・。-

この中でグリーンチャンネルの名前を出したが、グリーンチャンネルに対しても「パドック解説や司会者は不要だ」との声がある。これに対して、当事者側を含め、様々な立場の人々から異論反論があり、時々議論になっているのを目にすることがある。

司会者やパドック解説者のいない競馬中継というものは、前述した「黒塗りの競馬専門紙」に近いと思う。勝負をする上では、邪魔に感じる人もいるのかもしれない。余計な穴馬を推奨され、買い目を増やしてしまったが為に、傷口を広げる結果となってしまった、という経験がある人もいるだろう。一方で、そこまで馬券にのめり込むことなく、競馬を楽しみたい、という人には、競馬を楽しむ上で司会者やパドック解説者は役に立つ存在となるかもしれない。

「どちらがあるべき姿か?」という話ではない。「それを言っては元も子もない」と言われるのを覚悟で言えば、両方とも必要なのではないか?そんな悪魔の囁きを楽しいと感じる人もいれば、「余計なことを言うな」と思う人もいるだろう。ただ現状では、両方とも存在する状況ではなく、中途半端な形になっているから、双方から不満の声が挙がっているようにも思えるのだが。

ちなみに、私はここ3~4年ほど、競馬専門紙を買わず、JRA-VANや地方競馬DATAを競馬専門紙代わりに利用して馬券を購入している。これも評論家やトラックマンによる印はないので、「黒塗りの競馬専門紙」を利用している状態に近い。で、こうした形で競馬や馬券に関わることに対して、全く不安や不満は持っていない。だから、かつて印を黒のマジックペンで塗り潰していた人の気持ちは非常によく理解できる。それでも一方で「無くしてしまえ」というつもりはない。何故なら、そんなに馬券が当たっていないからである(笑)。

 

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